つかみどころがないんだ


流れに乗れたと思ったら機嫌をを損ねたように
その向きをかえてどこかに流れていく


そうまるで彼女は―





sylphid





いつだったか廊下で鉢合わせた日の事。
どちらからでもなく酒を持ちあわせ屋上に向かった

暖かい風が髪をゆらす。はクスリと笑い唐突に言う

「風みたいよね空賊は」

今そう思ったから言っただけ、と俺の方を見てグラスを前に出し乾杯の仕草
カタリと氷が傾き月の光で輝く。

静かに流れる時間に何を語るでもなくただ二人で過ごした
気ままな一人が好きなくせに孤独を嫌う

もしかしたら互いにそうなのかもしれない―


「だから俺は憧れた。」

低めの声でポツリとバルフレアが呟く。
私の取り留めの無い独り言の続きだろうか?

「そして今はこうして喜ばしい事にヴァン達専用の運び屋だ」

ゆっくりと力なく続ける会話

「その分楽しませてもらってるんでしょ?」

バルフレアはククッと喉で笑って答えた

はゆっくりと立ち上がり歩き出す
屋上の柵から身を乗り出しバルフレアの顔を見ずに問いかける。







「・・・・・ねぇ、変われた?空賊になって」





少しの間があって、それから
『変わったつもりかもしれない』そう言ってまた少しの沈黙。





「俺は知らないとは言え『破魔石』を狙った。」

「それで、ヴァンやアーシェ達と?」

「巡り廻って辿りついたこの場所は、俺が嫌気のさしたあいつと同じ舞台の上さ」

私の知らない彼の過去・・・。

何があったのと問えるほど酔ってはいなくて、
それでもまたゆっくり話し出すバルフレアの声に耳をかたむける。



「―・・地位や名誉に力、そんな事に執着する縛られた地上から抜け出したかった」




空を見上げ呟く

今までに無く過去を話すバルフレアが少し心配になった。
聞きたくない訳じゃなく、いつもと何か違う事が落ち着かないのだ。


「もしかしてバルフレア酔った?」

「聞くに堪えないか」

「なんて言うか」

そう口にしてクルリと振り返ると、
真後ろまで来ていたバルフレアにぶつかりそうになる

「びっ、、くりした」

グラスを落とさない様に手に力を入れると
外側に出来た水滴が手を伝ってポタリとバルフレアの袖に落ちた

みるみる広がってやがて侵食はゆっくりと止まっていく

「ごめん、冷たくはない?」

「さぁ」

「さぁって、やっぱ酔って―・・・ッ!」

ガチャンと音を立てる鉄柵。
それを両手で掴みバルフレアはの肩に頭を乗せ凭れる。

振動でグラスの中身がピチャリと床に音を立てて零れ落ちた。
頬に触れている髪が余計に心臓を早くさせていく―





「−・・・」


「・・・・・・・・・」


どんな風に声を掛けても不粋な気がして、
空いている方の手でそっと彼の背に触れた。



「風に乗るのも容易じゃないな」

この場の雰囲気に乗じて捕まえた筈が捉えられたのは俺の方か。。。


「意外ね、そんな事言うなんて」

「買い被り過ぎだろ」

「そう?かな」

「つけ上がるぞ」

「別にいいけど」

「・・・止めておく」

「そう、残念」

「・・・・なぁ」

「なに?」


バルフレアが僅かに頭を動かしフゥと息を漏らす。
酒のせいかそれとも外のせいかその息は熱く、
突然の首筋に吹きかけられた

「―!?ッちょっと!」

「どうした?」

くすくすと笑うバルフレアをよそには平静を保とうと努力する。

「馬鹿にしてるでしょ」

「してないさ」

「じゃあ、何?」

「さぁな」

「思い上がるわよ」

「ああ、そうしてくれ」

「なんてね、嫌よ。それはしないわ。」

「どうしてだよ」

「知りたい?」



真剣な眼差しになった
背中を後ろに反らせバルフレアの顔に正面から向き合った。



「そうなったら、こうやってかまってくれないでしょう?」



風に舞い上がる髪を押さえながらは嬌笑を浮かべた―


どれだけ人を翻弄すれば気が済むのか
彼女は人を魅了して止まない魔力を持つ

ただ、

それに空賊一人の心が奪われただけの事―